第62章 【第六十一訓】酒は憂いの玉箒でも憂いの原因は酒って話
「いらっしゃ……」
扉が開き、一人の客が茶屋へと入って来た。
とても見慣れた男。しかし、店で見るのは初めての男。
案内も待たずにズカズカと足を踏み入れると、最奥のテーブルへと着いた。
○○はその背を追った。
「ご注文は」
「水」
銀時は無表情で言い放つ。
○○は取り繕ったような笑みを浮かべた。
踵を返し、厨房へと向かう。
「お待たせいたしました」
目の前に置かれたものを見て、銀時の表情が緩んだ。
小ぶりのパフェ。
「頼んでねーけど」
「当店からのサービスでございます」
正確には、○○の奢り。
「どういう風の吹き回しだ?」
目の届く範囲では、○○は徹底して銀時に糖分を摂らせないようにしている。
パフェなんてものはもっての外のはずだ。
「二週間、大した食事してないから、今日だけはいいかなって」
銀時の姿を見るのは二週間ぶりだった。
あの『大江戸プラネタリウム』でのデート以来。
その間、銀時はまともな食事をしていなかったはずだ。
あの夜、銀時は○○とデートをしていた。
お登勢、妙、九兵衛、さっちゃん、月詠ともデートをしていた。
彼女等はそれぞれ、結婚を前提に銀時と同棲を始めたばかりだった。
六股デートがバレ、怒った婚約者達に銀時は縛り上げられた。
この二週間、銀時は木に吊るされていた。