第62章 【第六十一訓】酒は憂いの玉箒でも憂いの原因は酒って話
○○は一人、ドーム状の空間を見上げる。
数分後には、この真っ白いシートに、満天の夜空が映し出される。
偽物の夜空の場合、自分はどうなるのだろうと思いを巡らせる。
「待たせたな」
「もう始まっちゃうよ」
遊園地を後にした○○と銀時は『大江戸プラネタリウム』へと向かった。
座席に着いてすぐ、ヤボ用を済ませて来ると言ったきり、銀時は長らく戻って来なかった。
「映像でも、星空が拝めるのは嬉しいな」
○○はニコリと銀時に微笑みかける。
「そ、そうか」
銀時は頬を引きつらせていた。
「どうかした? 顔色が悪いよ」
「い、いや、不安なだけだ。○○に何かあったらと思うとな」
「銀さんってば、何ガラにもないこと言ってんの」
○○は銀時の手を取り、隣の席へと導いた。
上映開始のアナウンスが流れると、次第に場内の照明が落とされる。
銀時の姿も見えなくなった。
○○は目を閉じた。
まがい物の夜空でも、何があるかわからない。
隣に銀時がいないならば、避けた方が無難だ。
今、○○の横にいる者は、銀時のようで銀時ではない。
銀時を模した、内容物が空気だけで成り立っている、いかがわしい何者か。