第60章 【第五十九訓】チンピラ娘とかぶき町四天王の話
薄っすらと照らす月夜の下を歩く。
雲に隠れがちだが、時折、風と共に金色の球体が姿を現す。
銀時を捜しに出た夜のことは、何も思い出していなかった。
月のない夜に倒れたのは、恐らく、あの晩だけ。
「いいの? 外出許可もらわなくて」
「そんなめんどくせーことしてられっか」
銀時は何度も入院しているため、あの病院の医師とは顔なじみだ。
破天荒な性格も承知しているため、無断外出がバレても左程咎められることはないかもしれない。
見限られている、ともいうが。
「銀さん、これ血?」
街灯の明かりに照らされた病衣に、赤いシミがついていた。
○○の指さす先、袖口を上げる。
「俺の血じゃねーな。返り血だ」
「なんで病院で返り血なんて浴びてんの?」
先程、銀時が病室にいなかった理由がそこにある。
四天王の命を狙って、華陀が大江戸病院へと攻め込んでいた。
予期していた平子や銀時は、軍勢を迎え撃った。
その時、平子が振るった刀による返り血だろうということだ。
「ピラ子ちゃん、大丈夫かな」
「心配いらねーよ」
平子には散々振り回された。
親父のために、かぶき町に住まうたくさんの命を奪おうとした。
それでも、彼女の境涯を考えると、恨みと共に同情が生まれないことはない。
「一家惨殺の復讐よりかは、マシだったんじゃねーか」
次郎長一家への復讐の一心で、平子は上京したわけではなかった。
親子としての絆を欲していただけ。
復讐なら、次郎長の息の根を止めても憎しみが消えることはなかっただろう。
「そうだね――」
――復讐なんて
「○○?」
○○が立ち止まり、銀時は振り返った。