第60章 【第五十九訓】チンピラ娘とかぶき町四天王の話
一陣の風が頬を撫でる。
銀時の顔が月の光を微かに浴びた。
視線を上げようとしたところ、
「……痛い」
脳天を押さえられ、○○の視線は無理矢理に地面を向いた。
「わざわざ見んな」
「……だって、月ってキレイだし」
「そういうことは、月に耐性つけてから言うもんだ」
「銀さんに過保護にされてるから、ずっと耐性つかないよ」
「悪ィかよ、心配して」
銀時は○○の頭をヘッドロックで抱え込む。
目隠しのためとはいえ、あまりに雑。
「銀さん……」
視界を覆う銀時の腕を、○○は掴み、力を込めた。
その箇所は、次郎長によって傷つけられた、刀が貫通した右手首。
「いででで! そこ、傷あんだけど!?」
○○は思う。
銀時は何かを恨んで、憎んで、どうしようもない感情を抱いたことがあるのではないか。
だらしなく適当な暮らしをしているが、端々から、その根底にあるやる瀬なさが見える。
だからこそ、平子に巣くうものが復讐心ではなくてよかったと、思うのではないか。
「復讐なんてしても、何も変わらないよね」
「そうだね! それより腕!! これは俺の血!!」
ギリギリと握る○○の手によって、傷口が開いている。
袖口には返り血、手首の包帯には銀時の血が広がっていく。
思い出した。
あの夜、○○は江戸湾まで銀時を捜しに出た。
復讐の念に捕らわれる平子の心を想いながら。
だが、そこで何があったのかは、思い出せない。
思い出せるのは、漠然とした復讐心。
――復讐なんてしても、何も変わらないのはわかっている
○○は急いで街へと引き返した。
街の明かりの中へ、早く戻りたかった。仲間のいる場所へ。
かぶき町のネオンを見た時、緊張が解けた○○は倒れ込んだ。
――わかっている。でも……
「……このままじゃ、いられない」
「そう!! このままじゃ銀さんの腕が壊死する!!」
あの夜、○○は一隻の船を見ていた。
その船は、江戸における宇宙海賊春雨の実働部隊。
高杉率いる、鬼兵隊の戦艦。