第60章 【第五十九訓】チンピラ娘とかぶき町四天王の話
「アンタ……」
青白い顔で、西郷は肩からの出血を押さえていた。
西郷は神楽に敗れた。だが、それは神楽が負わせた傷ではない。
近くでは、平子が頭から血を流している。それは新八が負わせた傷だ。
「ア、アンタ一人で太刀打ちできる相手じゃないわよ!」
西郷と平子はケガを負って動けない。
他の連中も、動ける体力が残っていない。
一人で戦うなど、無謀にも程がある。
「私は一人でも、最後までこの場所を護る」
○○は見上げた。『スナックお登勢』の看板。年季が入って薄汚れている。
行き場のない○○を置いてくれたお登勢への恩は、何一つ返せていない。
「引く気は一切ないよ」
相手の数は五十を優に超えている。
○○は一人、刀を構える。
「おしまいだ」
「やられる」
次郎長の組員から、弱音が漏れる。
○○は打ち込みの時機を図る。息を整えたが、割り込んだ声に乱された。
「やれやれ、ガラにもなく情けない声あげちゃって」
その声はこの店――『スナックお登勢』の主。