第8章 【第七訓】原作第十九訓と第二十訓の間の話
「くすぐったいよ!」
今度は静寂は訪れず、すぐに声が聞こえた。
だがそれは想像した悲鳴ではなく、嬉々とした声。
目を開けると、そこには戯れて○○の手を舐めている定春の笑顔があった。
「……え?」
新八は我が目を疑った。
メガネを外し、目を擦る。
そしてもう一度、一人と一匹に目を向ける。
「あはは!」
そこには、○○の頬を舐めている定春がいた。
またメガネを外し、今度はメガネを拭いた。
そしてもう一度、一人と一匹に目を向けた。
「モコモコ」
すると、定春の胸に顔を埋めて、気持ちよさそうに擦りつける○○が見えた。
「何アルか、アレ」
「そんなこと僕が聞きたいよ」
酢昆布をくちゃくちゃ言わせながら、神楽も不思議そうに、しかしさして興味もなさそうに見ている。
「○○から好きな匂いでもするアルか。ドッグフードとか」
「いや、それじゃ逆に食べられちゃうでしょ」
外界など気にならない様子で、○○と定春は一人と一匹の世界を作り上げている。
「お手」
「ワン!」
「おまわり」
「ワン!」
「伏せ」
「ワン!」
「うわ、おりこうさんだね」
大きな図体を床に伏せている定春の頭は、ちょうど撫でやすい位置にある。
「てて……。おい、どうなってやがんだ」
「銀さん!」
頭を押さえつつも銀時は復活した。
床にあぐらをかいて仲睦まじい一人と一匹を見やる。
サイズさえ気にしなければ、それは普通の犬のようである。
「どうなってんだ。おい、定春。お手」
チッチッと上に向けた指を二度折り曲げ、銀時は定春に指し示す。
「ワギャ!」
すると、やはりお約束。
銀時の頭は再び定春に飲み込まれた。
「ダメでちゅよー、そんなばっちそうな頭食べたら。お腹壊しちゃいまちゅよー。ぺっぺしましょうねー。そんなに美味しいんでちゅかー? 銀さんのお肉はー」
銀時を銜えたままの定春の頭を、○○は捏ね繰り回している。
「○○さん、定春は別に赤ちゃんじゃないですから」
「いけない子でちゅねー」
「あの、聞いてます?」
「いないいなーい、バァ」
「聞いてませんね」
銜えられている銀時を気にせずに、○○は定春の目の前で顔を見せ隠ししている。