第8章 【第七訓】原作第十九訓と第二十訓の間の話
「いい加減にしろ、新ぱ」
「ワン!」
銀時の姿が影に覆われたと思うや否や、その頭は大きな口に飲み込まれた。
「定春!」
新八がその物体のものと思われる名前を口にする。
「大丈夫ですか! 銀さん!」
声を上げるが、助けようとはしない。
銀時の代わりに自分がターゲットにされては敵わないと、新八は少し距離を置いている。
○○はすっくと立ち上がり、その白いモフモフの真横に立った。
「○○さん?」
それは未だに銀時の頭をくわえ込み、ハァハァと吐息を漏らしている。
その円らな瞳と視線が合った。
「か……」
○○の顔がみるみる紅潮していく。
「かわいいいいい!」
銀時が食われていてもなんのその、ためらいなく頭を撫でた。
「ちょっとー! ○○さん、何やってんですか! 危ないですって!」
新八はもちろん、銀時ですら定春には手を焼いている。
このように頭を銜え込まれたこと数知れず。
宇宙最強戦闘民族・夜兎族の神楽しか対等に渡り合えない。
その頭を、○○は撫で回している。
「定春っていうのー? 可愛いー。モコモコー」
定春は口を開け、銀時を離した。
床に転がる銀時はピクリとも動かずに、頭から血を流している。
そんなものが足元に転がっていても気にせず、○○はひたすらに定春を可愛がる。
定春が頭を左右に振ったのをきっかけに、伸ばした手を引っ込めた。
その瞬間を待っていたかのように、定春は○○の手に顔を近づけた。
「危ない!」
噛まれる! と、新八は思わず目を瞑った。
しかし、悲鳴が聞こえることもなく、いつまでもシンとしたまま。
目を開けると、○○の手に鼻を充て、定春は首を傾げてその匂いを嗅いでいた。
「ああ! やっぱり危ない!」
ひとしきり匂いを嗅いだあと、定春は口を開けた。
新八はもう一度目を瞑った。