第56章 【第五十五訓】吉原炎上篇は諦めて回想にした話
「余計なことしないでもらえるかな」
巨大な兎の像に腰を落ち着けたまま、男はにこやかな笑顔を○○に向けていた。
過日、万事屋一行は花街・吉原へ乗り込んだ。
偶然出会った少年、晴太を母親と会わせるために。
晴太の母、日輪は吉原一の花魁で、晴太を彼女と引き合わせることは吉原に喧嘩を売るも同然だった。
吉原の自警団『百華』の包囲を搔い潜り、銀時と○○は日輪の元へとたどり着いた。
待ち受けたのは、吉原の楼主、夜王鳳仙。
鳳仙は神楽の父、星海坊主と並び称される程の実力の持ち主。
かつて、夜兎の王と呼ばれた男。
目の前で繰り広げられる、銀時と鳳仙の戦い。
銀時は○○に手を出すなと言い残し、単身で戦いに臨んだ。
○○では到底、敵わない相手。命は助かったとしても、タダでは済まないことは目に見えている。
○○は葛藤する。
足手まといにはなりたくない。でも、傷つく銀時をただ見ていることしか出来ない自分が許せない。
○○は唇を噛み締める。
そんな○○の気持ちを、彼は見抜いていた。
「君がいると、あのお侍さん、戦いに集中出来ないみたいだからね」
神楽の兄、神威。
銀時、新八、神楽とは遅れて吉原へ来た○○は、その時まで神威の容姿を知らなかった。
それでも兄が吉原に来ていると聞いていた○○には、一目で彼が神楽の兄であるとわかった。
「せっかくの面白い戦いに水を差さないでほしいんだ」
白い肌に青い瞳。華奢な体型。鮮やかな髪色。
男の容姿は神楽によく似ていた。
「安心しなよ。彼が殺されたら、俺がすぐに君を彼の元に送ってあげるからさ」
女を殺すのは趣味じゃないんだけどと言いながら、神威は○○に笑いかけた。