第55章 【第五十四訓】会っても互いを知ることは難しい話
「もう近藤さんでいいや。降りてよ」
「降りろ、ゴリラ!!」
○○の声に呼応するように、銀時はドアを開けた。
「一番図体がデカいんだ。気ィ利かせて降りろや」
銀時は近藤を足蹴にする。
「ちょっ、あぶなっ! お前コレ殺人未遂だぞ!!」
近藤はドアの縁に手をかけ、車内に踏みとどまる。
「殺人じゃねェ、殺ゴリラだ」
「殺す気はあるんだな! つか、こんな言い合いしてる場合じゃないだろ!!」
新八のいない空間。
ツッコミ担当のいない中、近藤がまともな意見を述べた。
「だって、狭いんだもの」
「いつからそんなワガママな子になったの、○○は!!」
もう! と言いながらも、近藤は立ち上がった。
「俺、後ろ行くから! それでいいだろ!!」
近藤は体を伸ばし、座席後部の狭い狭いリクライニングスペースに無理やり収まった。
「いい加減、車を返せ」
「返すも何も、総悟が奪ったんだし。私もいるし」
「お前は真選組じゃねーだろ」
「屯所にいた頃、タダ働きしてたんだから、パトカーをタクシー代わりにするくらいの権利はあるでしょ」
「タダ働きってお前、タダで泊まってタダで飯食ってただろーが。相殺されてんだろ」
「だから、タバコ禁止!!」
再び銜えられたタバコを○○はもぎ取る。
土方は息を吐く。
「ガキの惚れた腫れたにつき合ってる暇はねーんだ、こっちは」
事件に巻き込まれでもしたらとうららは姉の心配をするが、事件なら起きてから言えと土方はにべも無い。
そんな土方に、沖田は告げる。
「事件、起きました」
沖田は前方を見上げている。
○○が窓から身を乗り出すと、目の前に人だかりが出来ていた。
皆、一様に上空を見上げている。
彼等と同じく見上げた○○の目に映ったのは、デパートの屋上に佇む女性の姿。