第55章 【第五十四訓】会っても互いを知ることは難しい話
「ありがとうございましたァ」
レジを打つ、テーブルを片付ける、客を案内する、注文を受ける。
その繰り返しが続いている最中、○○は厨房でその声を耳にした。
「混んでるな。ここは諦めるか、うららちゃん」
店の入り口から聞こえた言葉。
(うららちゃん?)
それは新八の文通相手の子の名前だ。そして今のは、おそらく沖田の声だ。
○○は厨房から顔を出す。見えたのは、向日葵色をした着物を着た女の子の背中。
そして、
(今のはなんだァァァ!?)
その首に巻かれた首輪と、そこから伸びる鎖。
嫌な予感しかしない。
「店長! 申し訳ありませんが、早退させて下さい!」
混雑した状況で忍びないが、気になって仕事が手につかない。
渋る店長に○○は訴える。
「胸が苦しくて頭がズキズキしてお腹は下しそうで膝もガクガク言っててて一秒でも早く手術しないと死ぬかも、あ、死んだかも」
魂が抜けたような蒼白顔となった○○は、店長を欺いて店からの脱出に成功した。