第54章 【第五十三訓】文字だけで互いを知ることは難しい話
「前の○○さんになら、相談してたのに……」
ニコニコと銀時を見つめる○○に、新八は溜め息を禁じ得ない。
文通の件を相談する相手を考える中、身近での適任者は○○だろうかと一瞬は思った。
だが、その考えはすぐに否定した。
銀時と付き合うようになって以来、恋愛に関して○○は腐ってしまっている。
二人で出掛ける先がもっぱらラブホテルだということも何となく察している。
銀時について、新八や近藤はただれた恋愛しかしたことがなさそうだと言っているが、当たらずも遠からずといった感。
○○もすっかり銀時に取り込まれている。
「腐ったみかんは周りのみかんも腐らせるよな……」
このバカチンが。
自分はそうはなるまいと、新八は心に誓う。
「この写真って、ここで撮られたものだよね?」
○○は新八の文机に置かれた一葉の写真に目を止めた。
そこに映るのは沖田と新八。
沖田が刀を振るい、新八が斬られ役となっている、新八の近影として手紙と共に送られた写真。
「珍しいね、総悟が恒道館に来るなんて」
「近藤さんを捜しに来たんですよ」
事実、近藤は恒道館の軒下に潜んでいた。
新八が文通相手に送った二通目の書簡は、近藤のアドバイスも含まれたものだった。
「相変わらず悪質なストーキングされてるね、お妙さん」
「そんな不届き者は俺がこの手で逮捕する」
近藤は当たり前のように○○の横に着座していた。
「お前だろうがァァァ!!」
毎度のことながら家主の許可なく、近藤は上がり込んでいる。
「お妙さんは仕事ですよ。ここに来ないでお店に行って下さい。あ、いや、お店も出禁!」
「落ち着け、○○。今日は新八君のために来たんだ」
そろそろ手紙の返事が来る頃合いだろうと、近藤は訪れた次第だ。
程なくして、ブオオオオと表からバイクの音が響いた。
「飛脚が来たみたいです」
手紙の返事が来たかもしれない。
新八は表へと走った。