第53章 【第五十二訓】マイナスドライバーもあまり見ない話 其ノ三
工務店の前に立ち、○○は従業員募集の張り紙に目を向ける。
――ドライバー経験者求ム
○○は居場所を求めていた。
オフ会へと現れた桂は、元の体へ戻ることを諦められない面々に現実を突きつけた。
ゲーマー星人を捕まえることなど不可能。ドライバーとして生きて行くしかない、と。
銀時は『万事屋銀ちゃん』を廃し、長距離トラック『運び屋銀ちゃん』のドライバーへと転身してしまった。
新八と神楽は彼について行った。○○さんも一緒にと新八に誘われたが、○○は首を縦には振らなかった。
狭い車内で銀時とずっと顔を合わせていたくない。
喧嘩をしていることもあるが、それ以上に……
○○は変わらず『スナックお登勢』に起居しているが、万事屋の仕事がなくなり覇気のない生活を送っていた。
自分の存在意義は一体なんなのか。
そんな時、キビキビと働くたまを見て思いついた。
彼女は機械だ。マイナスドライバーを必要とする機会もあるのではないか。
しかし、たまは言った。
「申し訳ありません。私の部品にマイナスネジはありません」
自分の存在意義がますますわからなくなった。
「従業員希望者の方?」
聞こえた声に、○○は顔を向けた。
作務衣を着込んだ男が、ドライバーと化した○○の髪と従業員募集の告知を見比べている。
「えっと……」
○○は言葉を詰まらせる。
ここには、自分の存在意義があるかもしれない。そう思い、つい張り紙を見ていた。
だが、本当にそれでいいのだろうか。
「おたくはマイナスドライバーだね」
「ええ」
「この間、プラスドライバーの奴が来たばかりだよ」
男は工場内に顔を向けた。
釣られるように視線を向けた○○の目に、見知ったドライバーの姿が映った。
「トシ」
元の体を取り戻せず真選組での居場所を失くした土方は、ドライバーとして働いていた。