第7章 【第六訓】人生ってオッさんになってからの方が長い話
新八の姿を見送ると、○○は部屋を見回した。
殺風景な部屋。あの男に似合わず、綺麗に片付けられている。
○○は懐から一葉の写真を取り出した。
○○と思われる少女と、○○によく似た女性が写っている。
少女の小さな肩に手を乗せて、優しそうに微笑んでいる。それはきっと、○○の母親。
小さな茶屋の前で、二人は幸せそうに微笑んでいた。
裏側には『○○ 七歳』と記されている。
家族はいない。
あの男はハッキリとは言わなかったが、亡くなっているのであろうことが雰囲気から読み取れた。
写真に写る女性だけが、○○の支えだった。その女性は、もうこの世にいない。
ただ、それで腑に落ちたこともあった。
○○らしき人物に対する捜索願が出されていないことだ。
離れて暮らしていたならば、しばらく連絡がつかなくなっていることに気がつかなくても仕方がない。
けれど、真選組に拾われてから随分経っても、誰にも捜されている気配がなかった。
定期的に近藤は警察庁へ赴き、新しい捜索願を確認してくれていた。
長らく娘と連絡が取れず、放っておく親がいるだろうか。
天涯孤独。自分は、誰にも待たれてなどいなかった。
「そういうわけだ。お前がどこの誰かなんて知る必要はねェ。けーれ、けーれ」
呆然とする○○の肩を押し、彼は玄関から○○を押し出した。
「ちょっと、銀さん!」
少年の声と共に、カチャンと錠の下ろされる音がする。
それ以降、部屋からは何も聞こえなくなった。○○は階段を下りた。
表から部屋を見上げると、出て来た家には『万事屋銀ちゃん』という看板が掲げられていた。
そのまま屯所に戻ると、出迎えたのは無人の空間。
○○は座卓の前に座り、真っ黒いテレビの画面を見つめる。そこに映るのは、自身の顔。
自分は一体、何者なのだろう――
戸が開けられる音で、○○の意識は引き戻された。
あの男が帰って来たのだろうか。
ガラス戸に目を向けると、映ったのはあの男にしては小さい影。
「……何者アルか!」
入って来たのは、チャイナ服の少女だった。