第7章 【第六訓】人生ってオッさんになってからの方が長い話
「あの女の子も? あの人の娘……じゃ、ないよね」
池田屋事件の時も、この間も、ここにいた女の子。
あの朝、あの子は寝間着姿だった。ここで暮らしているのだろう。
子どもにしては年齢が近すぎる。
「まさか。神楽ちゃんも僕と同じで、バイトです。居候というか、住み込みで働いてるというか、そんな感じです」
「居候……」
真選組での自分と同じ立場だ。
しかし、あんな年端も行かない子が血も繋がらない男と二人、一つ屋根の下など許していいのだろうか。
あの男にロリコン趣味がないとも限らない。
○○の考えがわかったのだろう。苦笑いを浮かべ、新八は我が社長の体面を保つ。
「大丈夫ですよ。銀さん、ああ見えて犯罪行為をする人じゃないですから」
犯罪ギリギリの行いはよくするけど、と新八は思う。
「あの人、『銀さん』っていうんだよね」
「ええ。坂田銀時です」
坂田銀時――
子どもの頃から知っている名前なのだろうが、記憶の糸に触れるような感覚は何もない。
新八は時計を見る。
「すいません。僕、今日は用事があって、そろそろ行かないと」
「え、あ、ごめんね。引き止めちゃって」
○○が立ち上がると、新八はそれを制した。
「□□さんはいてもらって大丈夫ですよ。銀さんが戻って来るまで、待っていて下さい」
新八は初めて○○の名前を呼んだ。
しかし、それは呼ばれ慣れない名字。
「□□、さん……」
○○はその名字を復唱する。
自分のものとは思えない、しかし、生まれた時からついているはずの自分の名字。
○○の反応に、新八は表情を曇らせた。
「名前で呼んだ方がいいですか」
「ううん。いいよ。□□、が私の名字、のはずなんだから」
否定はしたものの、やはりその名に違和感を覚えてしまう。
「すいません」
「いいんだってば。謝らないでよ。それより、いいの? ここで待ってて」
知り合ったばかりの赤の他人を一人で留守番させるなど、危険ではないか。
「大丈夫ですよ。取られるものもないですし。お茶も好きなだけ飲んで下さい」
「じゃあ、遠慮なく待たせてもらうね。ありがとう」
笑顔を見せると、新八は出て行った。