第45章 【第四十四訓】真選組動乱篇 其ノ一
「○○さん」
顔を上げると、頬を引きつらせた新八が立っていた。
○○は眉間に皺を寄せながら新八に尋ねる。
「ネェ新八君、あの人、誰」
「ひ、土方さんです……」
「いや、どこの土方さん?」
「真選組の、土方十四郎さんです」
答えながらも新八はなおも頬を引きつらせている。
○○は再度額を押さえる。
様子がおかしいとは山崎が言っていたが、想像以上のおかしさだ。
一旦座って落ち着きましょうとの新八の言葉で、○○は土方の横に腰を下ろした。
○○は疑わしい目を土方に向ける。
これは本当に自分の知る土方十四郎なのだろうか。
至近距離から○○の視線を受けている土方はキョドキョドと視線を漂わせている。
口元に締まりがない。
その頬はうっすらと赤く染まっている。
○○の額からブチッという血管の切れる音が鳴る。
「ああああなんかイライラする! ナニその顔! アンタほんとに土方十四郎かァァ!?」
○○は土方の胸倉を掴み上げた。
○○の剣幕に怯えながらも、土方はさらに顔を赤くする。
妙齢の女性に間近で見つめられ、土方は照れている。
「○○さん! 落ち着いて下さい! その土方さんは土方さんですけど……なんか土方さんじゃないです!」
新八は立ち上がって○○をなだめる。
言っていることは支離滅裂。しかし他に言い様もない。
○○は土方の胸倉から手を離し、ソファを離れて一人掛けの椅子に腰を下ろした。
腕を組み、背凭れにふんぞり返りながら威圧的に土方を見下ろす。