第45章 【第四十四訓】真選組動乱篇 其ノ一
「ちょいとお待ち」
その日、アルバイトへ行こうと扉に手をかけた○○はお登勢に呼び止められた。
「アンタ充てだよ。山崎某ってのから」
お登勢は受話器を○○に差し出した。
○○は踵を返し、礼を言いながら受話器を受け取った。
「もしもし」
――山崎です。
「うん。どうしたの」
言葉を発しながら、山崎と話すのは先日万事屋の前で遭遇して以来だなと思い起こす。
銀時達ともあの後の話はしていないが、山崎がとばっちりでボコられたことは想像に難くない。
文句の一つでも言うために電話をして来たのだろうかと思ったが、あの件とは全く関係のないことだった。
「トシの行きそうな所? 何それ、どういうこと?」
山崎の口から発せられたのは「土方の行きそうな場所に心当たりはないか」というものだった。
「行方不明になってるってこと?」
○○は表情を険しくする。
誰にも告げずに行方をくらますなど、そうそうあることではない。
何か事件に巻き込まれていることも視野に入れなければならない。
攘夷浪士に捕らえられている、あるいは殺害されている可能性すらある。
――いえ、そういうわけではないんです。
山崎と○○が最後に顔を合わせたあの日から、土方の様子がおかしいという。
局中法度を何度も破り、謹慎を命じられた。
その後、土方は自ら屯所を出て行ったようだという。
土方が攘夷浪士に取り囲まれて土下座をして謝っていたという噂すらある。
○○は眉間に皺を寄せる。
「ちょっと待って。頭が全然追いつかないんだけど」
土方が攘夷浪士に命乞いをするなどあるわけがない。
山崎もそんな噂は信じていないが、土方の様子がおかしいという点は確かだという。
「もうちょっとわかりやすく説明してよ」
昼過ぎにアルバイトが終わるからその足で屯所に行くと告げると、山崎は拒んだ。
――危険なので今は屯所には近づかないで下さい。
「どういうこと?」
今は説明をしている時間は取れないから、夕方こちらから万事屋に行くと告げて電話は切れた。
○○は受話器を置いた。一体、土方の身に何が起こったというのだろう。