第7章 【第六訓】人生ってオッさんになってからの方が長い話
「ここだ」
近藤が警察庁に向かって疾走している頃、○○は一度だけ来たことのある場所に来ていた。
自分の足で訪れるのは今日が初めて。
看板を見上げる。『万事屋銀ちゃん』と記されている。
階段を上り、扉の前に立つ。チャイムを鳴らす。
「はーい。お待ち下さーい」
中から聞こえて来たのは、覚えのある少年の声。
ガラリと扉が開けられる。
「あれ? おはようございます」
彼も○○のことを覚えていたらしい。
少し驚いた表情を見せながらも挨拶をくれた。
「朝早くにごめんなさい。あの人、いますか?」
幼なじみらしい、銀髪の男。
「銀さん、今少し出てるんですよ。上がって待っていて下さい」
通された部屋は、この間、三人と初めて言葉を交わした部屋だった。
「どうぞ。今、お茶を入れて来ます」
「お構いなく」
少年はニコリと笑顔を作って部屋を出た。○○は示されたソファに腰を下ろす。
部屋の中央にテーブルと、それを挟む二つのソファ。隅にはテレビがあり、その横に大きめの机がひとつある。
見上げると、
「……『糖分』?」
と書かれた額縁が目に入った。
「お待たせしました」
「ありがとう」
盆の上に急須と二つの湯飲みを持ち、彼は戻って来た。
○○の向かいのソファに座り、慣れた手つきで茶を注ぐ。
「いただきます」
二人同時に茶を啜る。少し渋めだけれど、体の芯から温まる。
○○は一息吐くと、彼に尋ねた。
「えっと、君は……」
「新八です。志村新八」
「新八君。は、ここのバイトの子?『万事屋銀ちゃん』っていうのは……」
「はい。僕はバイトみたいなもんです。『万事屋』は銀さんが営んでる、まあ、何でも屋ですね」
「何でも屋」
何やら胡散臭い商売だ。
だが、あの胡散臭そうな男に似合いの職業のような気はする。