第42章 【第四十一訓】沖田姉弟と気にくわねェ野郎の話 其ノ一
「今日は楽しかったです」
ミツバは丁寧に頭を下げた。
あたりはすっかり暗くなり、夜の帳に包まれている。
ほぼ半日、○○と銀時は沖田姉弟に付き合った。
「こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました」
○○は礼を述べる。
江戸の街を案内すると言い、沖田はミツバを連れ回した。
○○と銀時は二人について行くだけでほとんど会話もなかったが、銀時と街をブラブラする機会もなかったので、こちらはこちらで勝手に楽しく過ごしていた。
沖田は姉の前で柔らかい笑顔を終始見せていた。
今まで見たことがない沖田の表情。
それが見られたこともまた貴重な体験だ。
「坂田さんも今日は色々つき合ってくれて、ありがとうございました」
何やかや文句を垂れつつ、銀時も半日共にいた。
銀時は目の前の屋敷を見上げている。
そこはミツバが嫁ぐことになった蔵場家の大きな屋敷。
「貿易業って儲かるんだね」
銀時の隣に立ち、○○も屋敷を見上げる。
ミツバの夫となる蔵場当馬は『転海屋』という貿易業を営んでいるという。
「ここなら屯所とも近いし、総悟も安心だね」
○○は銀時の右に立つ沖田に目を向けた。
だが、そこに見えたのはミツバのみ。
沖田は背を向けて遠ざかっていた。
「アレ? 総悟、帰っちゃったんですか?」
「勝手に巻き込んどいて、勝手に帰っちまいやがった」
呼び出しておいて、○○と銀時には一言の礼もなし。
○○と銀時は立ち去る沖田の後ろ姿を見送る。
あの子があんな風に育ったのは私のせいだと、ミツバは幼少期の沖田の話を二人に聞かせた。