第42章 【第四十一訓】沖田姉弟と気にくわねェ野郎の話 其ノ一
「激辛せんべえ、ありがとうございます。アレ大好きなんです」
○○はミツバに礼を述べた。
不思議そうな顔をするミツバに、最近まで○○が屯所で暮らしていたことを沖田は説明した。
内容は女中として雑用を任せていたというものだったが、○○は敢えて否定はしなかった。
「まァ、真選組にいらしたんですか」
「ええ。近藤さんはじめ、他の隊士のみなさんにもとてもお世話になりました」
「そうですか。屯所に……」
○○は首を傾げた。ミツバの表情が一瞬だけ悲しげな色を帯びて見えた。
ミツバは手を伸ばすと、銀時の前に置かれていたパフェグラスを手元へと引き寄せた。
「ミツバさん?」
「アレ? ちょっと、お姉さん、何やってんの? ねェ」
ミツバは窓際に置かれた赤い瓶を手にすると、パフェにビチャビチャと注ぎだした。
「辛いものはお好きですか?」
弟が世話になった礼に美味しい食べ方を教えると、ミツバはパフェにタバスコを大量にかけた。
「私は辛いものは好きですけど……」
隣に目を向けると、銀時のこめかみから汗が流れるのが目に入る。
辛いものが比較的に好きな○○でも、パフェにタバスコをかけて食べるなどという暴挙はしない。
甘党の銀時にとっては目の前のものはもはや食べ物とすら認識されていないかもしれない。
パフェはタバスコの中に浮いている状態。
「好きですよね、旦那」
沖田は銀時の首筋に刀を突きつける。
銀時がパフェを断ると、ミツバはゲホッゴホッと咳をした。
ミツバは肺を患っており、ストレスに弱いという。
「ミ、ミツバさん!」
「姉上ェェェェェェェ!!」
突然血を吐いたミツバに、○○と沖田は慌てて駆け寄る。
「大丈夫。さっき食べたタバスコ吹いちゃっただけ」
口から噴き出たのは血ではなく、ただのタバスコ。
安堵する○○の背後からガシャァァンという陶器の割れる音が響いた。
○○が背後に目をやると、銀時がテーブルに倒れて食器やグラスを盛大に割っていた。
「何してんの! 銀さん!」
銀時がタバスコパフェを完食した所を、誰も見てはいなかった。