第7章 【第六訓】人生ってオッさんになってからの方が長い話
「総悟! 大変なんだって! これ見ろ!」
「何ですかィ」
目の前に突きつけられた紙を沖田は受け取った。
その文章を淡々と読み上げる。
「“本日を以て真選組を脱退します。あばよ。○○”」
さすがに土方も目を丸くし、沖田に視線を向けた。
紙から目を離すと、沖田はそのまま土方の方を向き、ニヤリと笑った。
「出てっちまったみたいですね、○○」
土方は一瞬眉間に皺を寄せると、灰皿にタバコを押しつけた。
ゆっくりとした足取りで沖田に詰め寄る。
「貸せ」
掻っさらうように沖田の手から紙を奪い、文面を読む。
それは一字一句、沖田が読み上げた通りに記されていた。
土方は一つ小さく息を吐いた。
「アイツ、この所、大人しくしてると思ってたら……」
土方は左手で顔を覆った。
「大人しいのは土方さんに対してだけじゃないですかィ」
あの日、朝帰りをして口論して以来、○○と土方は一度も口を聞いていない。目すら合わせない。
常に大量に常備されていたマヨネーズを、○○が買って来ることもなくなった。
「近藤さん、この手紙、どこにあったんだ」
近藤は涙目で自分のおでこを指さした。
「起きたらここに貼ってあった。ほら、まだ○○の手形が残ってんだろ」
相当の力を込めて貼りつけられたようで、近藤の額には赤く丸い形がうっすらと残っている。
「気づけ!」
ここが比較的に安全な屯所内とはいえ、いつ攘夷浪士が寝込みを襲って来るかもわからない。
こんな大きな衝撃を与えられながら起きないとなると、忍ばれたらその首は確実に獲られる。
近藤はなお沈んだ、今にも泣き出しそうな表情を見せたままでいる。
土方は再び手紙に目を落とした。
「どうすんだよ! トシのせいだぞ!」
近藤に責められても、土方には返す言葉もない。