第7章 【第六訓】人生ってオッさんになってからの方が長い話
その朝は、騒々しく始まった。
春の麗らかな陽気には似合わない叫び声と足音が、屯所中に響き渡る。
「トトトトト、トシー! トシー!」
ドタバタドタバタと、寝間着姿のまま近藤は大股で走っていた。
右手に一枚の紙を握り、必死の形相でひたすらに走る。
「トシ! トシ! トシ!」
土方の自室、稽古場、厠と渡り、ようやく目的の人物を見つけた。
「トシー!」
視線を受けるや否や、くつろいでタバコを吹かしていた土方は、騒音の元を睨みつけた。
「うるっせーな、朝っぱらから! 何なんだ、さっきから!」
数分前からけたたましく響いていた声を、土方は額に怒りマークを浮かべながら聞いていた。
土方は一度座卓を拳で大きく叩くと、視線を再びテレビに戻した。
テレビに映るのは朝のニュース。
ぶった斬られ、使い物にならなくなったテレビは捨てられ、近藤のポケットマネーで新しいものへと買い替えられている。
「そんなどうでもいいニュースなんて、見てる場合じゃないんだって!」
眉尻を下げ、近藤は慌てた素振りで、両手を上下左右に不規則に振り回している。
浮かべる表情は今にも泣き出しそうだ。
「警察が殺人事件をどうでもいいとか言うな」
とはいえ、土方も特に関心があって見ているわけではない。
犯人も検挙されているというし、真選組の関わる事件ではない。
土方は一筋、白い煙を吐いた。
「それよりこっちの方が事件だって! んも、大変なんだって!」
近藤はその場で床が抜けそうなくらいに地団駄を踏む。
「何かあったんですかィ」
騒ぎを聞きつけ、着流し姿の沖田、それから隊服姿の隊士が五人程、姿を現した。