第39章 【第三十八訓】天堂無心流VS柳生陳陰流 其ノ三
勝利を手にするチャンスが文字通り目の前に転がっている。
しかし、苦しむ老人に木刀を叩きつけるなど、人道に反してはいないか。
○○は首を振る。そんなことは戦場に置いては関係ない。
情けなど見せていたら、こちらがやられる。
○○は木刀の切っ先を足元に向ける。
転がる老人の額がこちらを向くと、○○は木刀を振った。
「――!」
だが、木刀は空を切った。
危機を察知した老人は数メートルもの大ジャンプを見せた。
そのまま再び木の上に姿を消すのかと思いきや、空中で旋回して○○の上へ落ちて来た。
○○は頭上で木刀を構え、老人の草履の裏を受け止める。
老人はそのまま、○○の後方へと走り去った。
「カーヤァァァ!!」
振り返ると、聞き取れない言葉を叫びながら尻を押さえて走り去る背中が小さく見えた。
「待て!」
その姿を追おうと一歩踏み出した○○の足の下から、パキッという音が鳴る。
目を向けると、白い陶器の欠片がパラパラと落ちていた。
○○は頭上に手を乗せる。ジャリジャリと、嫌な感覚が手のひらを刺激する。皿が割れている。
老人の草履を受け止めた時、木刀の柄が頭上の皿を打ち砕いていた。
○○は呆然と立ちすくむ。