第37章 【第三十六訓】天堂無心流VS柳生陳陰流 其ノ一
「一人だけ食ってよォ、しかもタダだと? ふざけんな」
ブツブツと言葉を漏らしながら、銀時はトントンカンカンとトンカチを動かす。
「しつこいなァ。甘いもののこととなるとこれなんだから。自分の血糖値考えてよ。はい、神楽ちゃん」
銀時の文句を聞きながら、○○は道具箱から釘を取り出して神楽に手渡す。
依頼内容は雨漏りの修繕。四人は作業着に着替え、屋根の上で作業を行っている。
「それにしても新八君、今日静かだね」
○○は神楽の手元から目を離し、屋根のてっぺんに座っている新八に目を向けた。
先程から一度もツッコミが聞こえない。
「そんなことないです。いつも通りです」
そう漏らす声もどこか元気がない。
「それならいいけど」
本人が放っておいてほしいのならば無理に聞いては悪い。
○○の気遣いに気づいた新八は、心配させるわけにもいかず、気に病んでいることを話した。
特に話したくない内容でもない。
「実は……」
新八から語られたのは自身のことではなく、姉のことだった。
「朝帰り?」
「そーなんです」
今朝、キャバクラからの帰りがいつもより遅かったという。
しかも、着替えてすぐにまた出て行った。
「……恋人かな」
「そんなんいるわけねーだろ!」
ポツリと呟かれた○○の言葉に、敬語を使うのも忘れて新八は声を荒げた。
「新八、そういう時はなァ、黙って赤飯炊いてやれ」
「やめてくんない!!」
新八は男の存在を完全否定。
「お妙さんもお年頃なんだし、恋人くらい。でも、男の人の影なんてお妙さんの周りで感じたことないけど……」
感じることがあるとしたら、ただ一人。
妙と一緒にいると、どこからともなく現れたり、視線を感じたりする輩が一匹。
「まさか、あのゴリラと!?」
「あ、やっぱり新八君もそこにたどり着くんだ」
妙の周りを絶えずうろつくストーカー。
近藤勲が一番妙に近く、同時に一番遠い男でもある。