第37章 【第三十六訓】天堂無心流VS柳生陳陰流 其ノ一
「○○さん、遅いですね」
料亭の門前で、新八は往来に目を向けている。
○○の姿は見当たらない。
「ったく、バイトより依頼が優先じゃねーのか」
小さな溜め息を漏らしながら、銀時は呟いた。
今日はこの料亭から屋根の修理を依頼されている。
○○はアルバイトの後、直接現地へ向かい合流することになっていたのだが、時間になっても姿を現さない。
「先に行きましょう。依頼の時間に遅れるわけにはいきませんからね。行くよ、神楽ちゃん」
新八は振り返り、庭の池を覗き込んでいる神楽に声をかけた。
新八を先頭に、銀時、駆け寄って来た神楽は、料亭の入口へと歩みを進めた。
「万事屋です。屋根の修理に参りました」
新八が声をかけると、使用人が出迎えた。
履物を脱ぎ、廊下を奥の部屋へと通される。
連れて来られたその部屋では、
「どうして万事屋なんかに依頼したんですか? ちゃんと大工さんを雇った方がいいですよ。彼等を信用しちゃダメです。家の修繕をしても、逆に壊しますからね」
「いえねえ、こう見えても経営が苦しくてね。正式な所に頼むと、入用以上の金額を請求されるでしょう? 削れる所は削っていかないとねェ……」
「へえ、こんな立派な料亭でも……。そうは見えませんけどねェ」
「不景気ですからねェ……」
かりんとうを口に運び、○○はまったりと主人らしき老爺と話をしている。
「お前、何してんの!」
真っ先に声を上げたのは銀時。
「あ、いらっしゃい。思ったより早く着いちゃって、先に上がらせてもらってた」
○○は茶を飲み干す。
「ご馳走様でした。羊羹も、お饅頭も、甘納豆も、かりんとうも、とても美味しゅうございました」
○○は丁寧に頭を下げる。
「どんだけ食ってんだ! つーか、なんで食ってんだ!」
「試作品の残りだって。結構待ったんだよ。みんな、遅くない? 予定時間ちょうどだよ」
「お前が来ねーからギリギリまで待ってたんだろ!」
「さて、仕事に取りかかりますか。ご主人、修繕箇所はどちらですか?」
○○は主人を促して立ち上がった。