第36章 【第三十五訓】ホストクラブ『高天原』の話 其ノ二
「私のお酒!」
取り返そうとする○○の手を押さえつけ、銀時は一気にあおる。
「男に囲まれてチヤホヤなんて慣れてんだろ。浮かれてそんな酒飲んじゃってまァ」
隣のテーブルでは神楽がホスト五人に囲まれている。
先程まで、そのうち二人は○○の相手をしていた。
こちらのテーブルからその様子を銀時は見ていた。
「それ、真選組のこと?」
男に囲まれた環境であることは確かだが、チヤホヤされた覚えはない。
交わすのは愛の囁きではなく刀のみ。道場に立ち込めるのは酒気ではなく臭気だ。むさ苦しい男の臭い。
「ホスト通いする金なんてねーぞ。泥に足つっこむ前に現実を見ろ」
自分はキャバクラに行くが、彼女のホスト通いなど許せはしない。
狂死郎の笑顔に向けられる○○の瞳は、愁いを含んだ艶っぽいものだった。
○○としては珍獣を観察している気分だったが、銀時には○○が狂死郎に見惚れているようにも見えた。
瞳の愁いはテキーラの影響であり、誰を見る目もとろんとしている。
右に座るおばちゃんに向ける瞳すら色っぽい。
「銀さんがいい」
「あ?」
愁いを帯びた瞳で銀時を見つめる。
「銀さんがいるなら、毎日通う」
酔いが回りふらついた頭を銀時の肩に凭れさせた。
一気にテキーラをあおった銀時も多少酔っている。○○の腰に手を回して引き寄せる。
「あとでホテル行くか」
○○の耳元で銀時は囁く。
アルコールが抜ける前に。見たことのない○○が見られそうだ。
二人の様を隣で見せられている新八は堪ったものではない。
「すいません。こんな所でイチャつかないでもらえますか。腹立つ」
この酔っ払いどもがと悪態をつく。