第6章 【第五訓】喧嘩はグーでやるべしの夕の話
息を吸い、ニコチンを取り入れる。
「やることなすこと干渉するつもりは毛頭ねェ。どこにいようが、何をしようが、テメェの勝手だ。ただ――」
言葉を探すように一旦区切る。
○○は眉間に皺を寄せながらも、土方の声に耳を傾けていた。
「ただ、世の中の風紀を守る真選組の一員が夜中に用もなく出歩くな」
煙と共に言葉が吐き出される。
その言葉とタバコの臭いが呼び水となり、堪忍袋の緒が引き千切られた。
溢れた怒りが土方に向けられる。
「何が真選組の一員!? 雑用しかやらせてくれないくせに、こんな時だけ隊士扱いしないでよ!」
大声を上げると、畳を踏み鳴らし、○○は自室へと消えて行った。
「あーあ。怒らせちまいやしたね」
「チッ」
土方はタバコを灰皿に押しつけると、リモコンを取ってテレビに向けた。
だが、そこにあるのはただの鉄屑。
「何だ、このテレビは! ドラマの再放送が見らんねェじゃねーか!」
「アンタのせいでさァ」
土方は怒りに肩を震わせている。
「あんな言い方しないで、素直に言えばよかったんですよ。お前が心配なんだって」
沖田は立ち上がると、テレビの修復作業に取りかかった。
「あ? わけのわかんねーこと抜かしてんじゃねェ」
「ま、いなかったことに気づかなかった甲斐性なしの言えた義理じゃねーことは確かでさァ。嫌だ嫌だ、そんな身勝手束縛野郎。最低だ」
「おい、刀を取れ」
背後からの殺意に沖田は振り返る。
「やめときやせんか。一日に二回も負けると、さすがに堪えるでしょう」
「言うじゃねーか、テメェ。刀を抜け!」
既に臨戦態勢の土方。
対する沖田は、左右に分かれたテレビを合わせガムテープで巻いている。