第35章 【第三十四訓】ホストクラブ『高天原』の話 其ノ一
「母ちゃんだよ。八郎の母ちゃん」
おばちゃんはそう名乗った。
江戸に上京してから音信不通となっている息子を捜しに来たという。
だが居場所は見つからず、迷っていた所『万事屋銀ちゃん』の看板を見つけたという。
これから世話になるので朝餉でも、ということらしい。
「やっぱり、子どもが音信不通になったら捜しますよね」
○○は誰にも捜されていなかった身の上と重ねる。
八郎の写真を手に取る。どこにでもいそうな、平凡な青年だ。
「仕事なら引き受けますけどね、おばちゃんお金とかちゃんと持ってんの?」
銀時の言葉に、おばちゃんはカボチャをテーブルの上に広げた。
○○は一つを手に取って眺めた。
「アラ、いい色のカボチャですね」
「そうでしょ。うちの畑で収穫した無農薬栽培のカボチャだからね」
「アラ、音もいい」
コンコンと、○○はカボチャを叩く。
「これは実が詰まってそうですね。鈍器としても使えそう」
「ダメです、○○さんんん!」
おばちゃんに向けてカボチャを振り上げる○○を、新八は背後から羽交い絞めにする。
「おばちゃん、おばちゃん、誠意って何かね?」
カボチャの十個や二十個では、銀時はもちろん依頼など引き受けない。
何をどう間違えたのか、おばちゃんは布団に仰向けになって叫んだ。
「アンタに真実の愛なんてつかめやしない!」