第35章 【第三十四訓】ホストクラブ『高天原』の話 其ノ一
この人と出会わなければ、今でも○○は真選組監察として屯所にいたはずだ。
彼と出会い、桂とも出会うことになった。
○○の知る指名手配犯の桂小太郎は、過激攘夷浪士として幕府転覆を企む危険な存在だった。
しかし、○○と出会ってから、桂は過激な攘夷活動は一切していない。
過激攘夷浪士の桂と、柔和になった幼なじみだと知った桂を同一視は出来なくなっていた。
穏健派でも過激派でも、攘夷浪士には変わりない。それはわかっている。
桂を友人とする以上、屯所にはいられない。
真選組に世話になった身で、恩義を仇で返すようなことは出来ない。
もし仮に桂が捕まったとしても、○○は助けないと決めた。
どちらか一方の味方になどなれない。
「銀さん」
○○は銀時の顔を見つめる。
「これじゃ卑怯だよね」
弱い自分に嫌気がさす。
銀時の返答は「コー、カー」といういびきのみ。
それを聞いていると、○○も次第にうつらうつらとして来た。
昨夜は、店から響く酔客達の声でよく眠れなかった。
『スナックお登勢』で暮らすならば慣れなければいけない環境だが、まだ体が対応出来ない。
こくりこくりと首が折れる。
薄い意識の中、カンカンカンと包丁とまな板が合わさる音が聞こえる。ぐつぐつと煮える音。
夢の中でまで自分は朝ご飯の支度をしているかとぼんやりしていたら、匂いまで漂って来た。
夢の中でどんなご飯が食べられるのだろうと思っていると、
「いつまで寝てんのォ!!」
と、襖を開けて見知らぬおばちゃんが乱入して来た。
○○の眠気が吹き飛ばされる。
その声に起こされた銀時は、目の前のおばちゃん、そして横にいた○○に驚いて二度身を震わせた。