第35章 【第三十四訓】ホストクラブ『高天原』の話 其ノ一
『スナックお登勢』の店先で、○○は伸びをする。
朝の空から、太陽の光がかぶき町に降り注いでいる。
攘夷浪士による誘拐事件の数週間後から、○○は屯所を出て『スナックお登勢』に身を寄せていた。
「水臭いねェ、あたしには相談なしかィ。上がダメでも、下ならいいんだろ?」
○○が住む場所を探していると知ったお登勢は快く誘ってくれた。
銀時が怪我をして一時恒道館で暮らしていた時、
「部屋も多いし、このままここで暮らしたいなァ」
と、○○は冗談半分で口にした。
その案は、
「貴女がいたらあのゴリラが押しかけて来るに決まっているでしょう。訪れる口実を作らないで下さい」
と、妙に無碍なく断られた。
半分冗談だが、あわよくばと思っていた希望は一瞬にして打ち砕かれた。
大晦日に新八がその話をしているのを聞いたらしい。
今時、同棲を回避するために家を出るなど、感心な心掛けだとお登勢は思っている。
万事屋を出てもなお、○○の給料から幾らか万事屋の家賃が賄われていることも知っている。
一人暮らしをするにはこの都会は家賃が高すぎる。
万事屋の家賃まで賄って、自分の部屋の家賃まで支払うのは無理な話だ。
○○はお登勢の言葉に甘えることにした。
「おはよう」
○○は静かに万事屋の扉を開け、小さく声をかけた。
こんな朝早くに、銀時も神楽も起きているとは思えない。
居間の襖を開くと、やはりまだ銀時は寝ていた。
布団の横に腰を下ろし、いびきをかく銀時の顔を○○は見下ろす。