第34章 【第三十三訓】一日局長に気を付けろッテンマイヤーさんの話
「あ、来た」
ゾロゾロと、黒い集団がやって来る。
いつもと一つだけ違うのは、可愛らしい少女がその中に混ざっていること。
少女は『一日局長 寺門通』のたすきをかけている。
「本物のお通ちゃんだ。かわいーい。顔ちっちゃーい」
草むらの中から○○が歓声を上げる。
ファンという程ではないが、歌は知っているし、よく口ずさんでもいる。
「いた! 何すんの、新八君!」
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ。
一人だけ通が見えない新八は、憤りのあまり暴れていた。
蹴り上げた馬の右後ろ脚が、○○の足に直撃する。
「うぐっ……!」
くぐもった唸り声と共に、新八は大人しくなった。
殴られた拳が脇腹にめり込んだようだ。
「○○さん、ヒドイです!」
「私じゃないよ!」
勘違いされては困る。殴ったのは神楽だ。
馬の背中、新八の背中に乗っている神楽は、新八が暴れた振動で腹にダメージを食らっていた。
頭に来て新八の脇腹を殴った。それでも言葉を発しないのは『死体』という役をこなしているからだろう。