第6章 【第五訓】喧嘩はグーでやるべしの夕の話
「多串君のせいで、あと十分しか見られねーや」
「ちょっと! 私が先にテレビ取ってたんだから、勝手に変えないでよ! 誰、多串君って!」
○○は再びドラマへと局変更。すると再び、沖田も局変更。
醜いチャンネル争奪戦が勃発。
「今までドラマ見てたくせに、いつから『レディス4』に鞍替えたの」
「男心は複雑なんでィ。女子高生の人間関係みたいにごちゃごちゃして収拾がつきゃしねェ」
リモコンを取り合う二人の後ろで、土方の肩は未だ小刻みに震えている。
そのこめかみに段々と青筋が走っていく。
「トシも今まではドラマの再放送見てたよね。トシもそうなの? 女子高生並なの?」
振り返った○○の真横を、鈍い銀色の光が横切った。
「そうじゃねェだろうが。ドラマも『レディス4』も女子高生も、知ったこっちゃねェ」
華麗な一太刀を振り、土方はそれを鞘に収めた。
「テレビが……」
「あーあ。テレビはみんなのものですぜ。土方さんの一時の感情で壊されたとあっちゃ、堪まんねーや」
鈍い銀色の光は鋭い刃の残像。
土方はテレビに向かい、真剣を振り下ろした。
機械の箱は真っ二つに叩き斬られ、複雑怪奇な電子回路が露になっている。
バチバチと火花を散らし、一筋の煙が立ち昇る。
「最低! 物は大事に使えって、教わらなかったの!」
「こんな短気な子を持って、お母さんもさぞ大変だっただろーに」
「育て方が悪かったのかもしれないよ」
「いや、この眼つきの悪さ、生まれつきの性格にちげーねェ」
○○は怒って、沖田は面白がって土方の悪口を言い連ねる。
「小さなゴミの一つでも地球の生態系は崩れるんだからね! 物を粗末に扱うんじゃありません!」
「お母さんでさァ」
「家計も厳しいのに、この子はもう。ちょっとしたことで物に当たるんだから」
シクシクと口で言いながら、○○は目頭を着物の裾で押さえた。
「お母さん泣かせるたァ、最低でィ。金魚ばっかり構ってねーで、ちったァ家族のことも考えたらどうなんでィ、多串君」
二人のやり取りは、土方の怒りをこれ以上ない程に増幅させた。