第6章 【第五訓】喧嘩はグーでやるべしの夕の話
「お帰り」
夕方四時三十五分。
煎餅を食べながらテレビを見ていた○○は、足音を聞いて振り返った。
入って来たのは、土方に沖田、近藤の三人。
「どこに行ってたの。屯所に誰もいなくて、ビックリしたんだけど」
煎餅をバリバリ言わせながら、○○は視線をテレビに戻して背後の三人に問いかけた。
屯所に戻った○○は違和感を覚えた。
異様な静けさ。日中に人の声が聞こえないことなど、めったにない。
部屋を覗き歩いてみたが、猫の子一匹見当たらない。
門の前にすら誰もおらず、そこは完全に蛻の殻。
「無用心極まりないったらありゃしない。攘夷浪士に火でもつけられたらどうすんの」
「屯所より先に、アイツらのハートに火がつけられちまったんでな」
腕を組みながら、近藤はガハハハと盛大に笑う。
前日、近藤が卑怯な手で決闘に負けたと知り、隊士達は躍起立った。
朝から隊士総出で件の『銀髪の侍』を捜していたことを、○○は知らない。
「○○も火が出そうな顔をしているな」
最後の一口を飲み込むと、○○は茶を啜った。
「やっぱり辛いね、これ」
『激辛せんべい』と書かれた袋を持ち上げ、○○はくしゃくしゃに丸めた。
背後のゴミ箱にそれを投げ入れた時、真後ろにいた人物の肩がワナワナと震えていることに気がついた。
両拳に力を入れ、床を睨んでいる。
「あ、ごめん。トシも食べたかった?」
その原因を、○○は煎餅のせいと解釈。
「そうじゃねェ! ○○、テメェ、何を呑気にドラマの再放送なんて見てやがる!」
土方は視線を上げると、双眸をギラつかせて声を上げた。
その横で沖田はゆっくりと歩みを進める。
「そうですぜ。夕方四時は『レディス4』に決まってまさァ」
沖田は○○の隣に腰を下ろすとチャンネルを変えた。