第33章 【第三十二訓】鍋は人生の縮図であるの日の真選組での話
「何?」
自分から声をかけて来たにも関わらず、土方はそれ以降、口を開かなかった。
視線が泳いでいる。○○は眉をひそめる。
「何? マヨネーズならちゃんとあるよ」
「違ェ! マヨあんのは当然だろーが!」
「じゃあ、何?」
当然じゃねーよと思いながら、○○は視線を鍋に戻す。
「いや……元気にしてるか?」
「は?」
意味不明な言葉に○○は振り返る。
「いや、元気ならいいんだ」
疑わしい視線を○○に向けられた土方は、コホンとわざとらしく咳をする。
「大晦日はここにいるんだろーな」
「大晦日? まだ決めてないけど」
決めてはいないが、万事屋に行くことになるだろうとは思っている。
「松平のとっつァんがフランス料理だがなんだか食わせてやるっつってっから、お前も来い」
先日、松平から近藤へ電話が来た。
――いよォ、おめーら。シケた年末を送ってるか。大晦日なんだがよォ、おじさんがフレンチ食わしてやるから予定空けとけよ。年越しと年始の飯はいいもん食わねーとダメだぜお前。一年が台無しだ。今年は奮発しておじさんがおごってやるからよォ。てめーらにはこの先一生縁のねェ高級レストランだろーな。でも年始はダメだぜ。母ちゃん手作りのおせちがあるからよォ。母ちゃんの飯が世界一だからな。いやマジで。
とのこと。
「高級フレンチ……」
聞いただけで涎が出そうだ。
「それ、私が行っていいの?」
自分はただ屯所に置いてもらっているだけの居候だ。
日々、命を張って江戸を守っている隊士への労いの場であろうそんな場に、のこのこと着いて行っていいものか。