第33章 【第三十二訓】鍋は人生の縮図であるの日の真選組での話
「とっつァんには了承を得てるからな。問題ねーよ」
先程土方は近藤に提案をした。
○○も高級レストランに同行させる方法。
屯所に住み憑いている女の地縛霊に関して、成仏させる方法を得たと。
近藤はその提案を呑んで松平に連絡を入れた。
――とっつァん! あの女を成仏させる方法がわかったぞ!
――どうやら豪華な食事を家族で食べに行く途中、屯所が建つ前のこの場所で事故で死んだらしい。
――つまりは飯だ! 美味い飯を食わせれば、成仏するかもしれん!
バカだから大丈夫だろうとは思ったが、やはりバカだった。
松平は疑うことなく近藤の提案を呑んでくれた。
幽霊とはいえ、ムサイ男ばかりよりも、若い女がいた方がいいと思ったからかもしれない。
「成仏?」
○○は眉間に皺を寄せる。
「お前、忘れたのか?」
○○が屯所に住んでいることは誰も知らず、松平には屯所に住み憑いている霊だと思い込ませている件。
「ああ、そういえば」
それを聞かされたのは、○○が銀時と出会った日の朝のことだ。
あれからいろいろありすぎて、○○はすっかり忘れていた。
「つーわけだ。美味いもん食えば、嫌なことも忘れんだろ。あんまりみんなに心配かけんなよ」
土方は踵を返して台所から出て行った。
「……みんなに心配?」
○○は首を傾げる。
心配をかけた覚えはないが、心配されていたというのだろうか。
土方の「元気にしてるか?」という言葉を思い出す。
屯所に戻ってからの自分を思い返せば、確かにみんなと笑って会話をした覚えはない。
近頃、桂の件で考え込んでいた○○の姿が、元気がないと捉えられていたということだろうか。
土方なりに○○を元気づける方法を考えた結果がフランス料理だったのだろう。
挙動不審な態度で話しかけて来た土方の姿に苦笑する。
「ありがと、トシ」
それからごめんと思いながら、鍋に手をかける。