第32章 【第三十一訓】ミイラ捕りがミイラになった話
「何が怖いんだ」
真下から聞こえた言葉に、○○は目を見開く。
銀時は目を開けた。
「銀さん……起きてたの?」
銀時は黙って○○を見上げる。
○○は直視される銀時の視線を避けるように、手元を見つめた。
「何ビビってんだ。らしくねーな」
今の、○○らしくない。
銀時は溜め息を吐く。
「ビビってんのは、俺の方か」
○○は視線を銀時に合わせた。弱々しい瞳。昔の、○○の目。
○○がかつての○○に戻ってしまったら、どう接していいかわからない。
今の○○を失うことを、銀時は恐れている。
昔の○○に、銀時は何の感情も抱いていなかった。
それは○○も同じはずだ。好意を持たれていたとは思えない。
「○○」
銀時は○○の頬に触れた。
○○はその手に自身の手のひらを重ねた。
包帯の巻かれた右手。出会ってから、ずっと○○を護ってくれている大きな手。
この手を離したくはない。
「銀さ――」
「銀ちゃん、起きたアルか!」
背後から聞こえた元気な声に、○○は慌てて手を離す。
神楽は襖を大きく開いた。
「何してるアルか?」
神楽は首を傾げた。
銀時と○○は、揃って片手を頭上に上げていた。