第32章 【第三十一訓】ミイラ捕りがミイラになった話
「銀さん、入るよ」
襖を開け、○○は中を覗く。銀時は眠っていた。
○○は縁側の障子を少しだけ開けた。ついさっきまで橙色だった空は、ほぼ闇に覆われている。
買って来たジャンプを傍らに置き、○○は銀時の横に腰を下ろした。
「銀さん……」
上半身ほとんどが包帯に覆われている。『紅桜』との戦いによって負った傷は深い。
○○は目の前で全てを見ていた。殺されかけている姿を見ていて、何も出来なかった。
胸に手を当て、瞳を閉じた。
岡田に連れ去られたあの夜、○○は過去の記憶を少しだけ取り戻していた。自身の胸に深く残った刀傷の記憶。
銀時には話していない。初めてこの身を晒した時、この傷を見て彼は驚いていた。
傷のことを知らなかった銀時は、きっとその夜の出来事を知らない。
○○は森の中で胸から血を流して倒れていた。
視界に映るのは、鬱蒼とした木々の間から見える、恐ろしく大きな満月。
あの夜、岡田に連れ去られた日の月と、とてもよく似ていた。
ただ、その記憶は今ではおぼろげで、自身の出来事とは思えないでいる。
胸に残る傷痕だけが、それが自分に起こったことだと物語っている。
思い出したのは、本当にそれだけだっただろうか。
何かが引っかかっている。大切な、忘れてはいけなかった何かが、なかっただろうか。
「銀さん……」
○○は銀時の顔を見つめる。
全てを思い出した時、自分はこの人の傍にいられるのだろうか。
「怖いよ」
過去を思い出してしまうことが、怖い。