第32章 【第三十一訓】ミイラ捕りがミイラになった話
夕飯の材料とジャンプを買い、○○は恒道館へと戻る。
銀時が療養のために恒道館に身を置いているため、その間、○○も恒道館で寝食を共にしている。
夕暮れの空を見上げる。あの夜、岡田に連れ去られた日以来、○○は日が落ちてから外に出なくなった。
「ただいま」
大きな門をくぐり、玄関先で声をかける。
草履を脱ぎ、○○は台所へと向かった。
「お帰りなさい、○○さん」
「あれ? お妙さん、起きてたんだ」
スナックで働く妙は、普段この時間は出勤の準備をしている。
今日は休みだと聞いていたので、まだ寝ていると思っていた。
「今日は仕事が休みだから、腕によりをかけてお夕飯を作ります」
妙は腕まくりをした。
「私がやるのに。居候させてもらってるんだから、これくらいやらないと」
「いいえ。ここは私の家ですから。○○さんはお客様なんですよ」
夕飯の買い物も全部私に任せてくれていいのにと、妙は申し訳なさそうな顔をする。
○○が客だからという理由ではない。
○○の両手首には包帯が巻かれている。先日負った傷はまだ完治していない。
力を使う作業には、まだ痛みが伴う。
「とにかく、今日は私がやりますから、○○さんは銀さんの傍にでもいて下さい」
その言葉が、○○を操るには一番の効果がある。