第32章 【第三十一訓】ミイラ捕りがミイラになった話
「ここか……意外に広いな」
山崎退は恒道館道場を覗いていた。
数日前に起こった攘夷派同士の抗争に関する一件を、この日の昼間、土方に報告した。
共に攘夷を志すものでありながら、穏健派の桂一派と武闘派の高杉一派との間で争いが起きた。
桂側に『ガキを二人連れた白髪頭の侍がいた』という情報を聞き、土方は山崎に命を下した。
銀時の様子を探り、攘夷活動をしているようならば斬れ、と。
さらに戦場には不釣り合いな、着物姿の女性も目撃されていた。
坂田銀時、志村新八、神楽のいる桂一派に加わっていたと目される女性。
○○である可能性はほぼ間違いない。だが、山崎にも土方にもピンとこなかった。
○○が桂の仲間になど成り得るのか。
攘夷浪士に対する敵愾心は、真選組隊士をも凌ぐものがあると知っている。
「○○さん、最近屯所に戻ってませんよね」
今は屯所に住んでいる○○だが、時折無断外泊をしている。
始めは「万事屋に泊まる」と言っていたが、毎回土方に文句を言われることに辟易したのか、近頃は言わなくなっていた。
「○○さんが帰らなくなった日と、一致はしているんですよね」
今回、外泊中の○○は数日戻っていない。
その始まりは、桂一派と高杉一派がやり合ったという日の前夜。
偶然というには出来過ぎではないか。
「しかし、○○さんが旦那と関わっている以上、攘夷活動なんてしているとは思えませんが……」
「○○が何も知らねー可能性は否定出来ねーからな。探れ」
もしあの男が攘夷活動などしていれば、○○は自ら万事屋とは縁を切るはずだ。
土方はそう思っている。