第31章 【第三十訓】妖刀『紅桜』 其ノ四
『紅桜』は殲滅した、もうこの船に用はないと、桂は撤退を指示した。
退路は俺達が守ると、銀時と桂は刀を構える。
「銀さん……」
昨夜、銀時は瀕死の重傷を負っている。
それに加えて、先程まで岡田と死闘を繰り広げていた。
その体はもう立っていられる状態ですらないはず。
「わっ!! 離すネ、エリー!」
エリザベスは新八と神楽を両脇に抱え、桂の指示どおりに後ろの船に引き上げた。
「先に戻ってろ、○○。心配すんな。俺もすぐに行く」
銀時は背中を向けたまま○○に告げた。
しかし、○○は動かない。不安そうに見つめている気配を感じる。
「行ってくれ」
銀時は目の端を○○に向けた。
口元には微かに笑みを湛えている。
「屍の中にいるお前の姿なんざァ、いつまでも見ていたくねーんだ」
「銀さん……」
○○は踵を返すと、エリザベスの背中を追いかけた。
「あの二人の首をとれェェ!!」
天人は銀時と桂に襲い来る。
多勢対たったの二人。その実力は二人の方が圧倒的に上回っていた。
桂はパラシュートを使い、船上から脱出する。その腰に銀時はしがみつく。
彼等は中空を海面へと向かい漂い降りる。
「なるほどねェ」
逃げの小太郎とはよく言ったものだ。
救援の船の上から、○○はゆらゆらと降りて行く二人の姿を見下ろす。
初めて見た剣術能力の高さと、用意周到な逃走経路。
真選組の追撃がかわされて来た理由がわからないでもない。