第31章 【第三十訓】妖刀『紅桜』 其ノ四
「高杉の野郎とは、会ったのか」
唐突に出た名前に、○○は眉をひそめる。
「銀さん、アイツと知り合いなの?」
幼なじみだと聞かされていないと、その反応で知る。
銀時、桂と同じく、高杉も○○と同郷であり、三人しかいない○○の友人の一人だった。
知らされていないのならば、わざわざ教えることはない。
「……攘夷戦争の頃に、一緒に戦ってたヤローだ」
○○は目を見張る。
桂のみならず、高杉とまで知り合いであることに驚きを隠せない。
丸くする○○の瞳の中に、銀時は幼き日の○○を見る。あの日の○○も同じような顔をしていた。
自分と桂と高杉と、競うように○○に自分の剣術を教え込もうと争った挙句、○○をほったらかして喧嘩を始めた。
○○は何も言わず、喧嘩が終わるまで目を丸くして見ていた。
あの時、最初に○○のことを思い出して喧嘩を止めたのは――
「どけ。俺は今、虫の居所が悪いんだ」
この男だった。
「ヅラ!?」
○○は振り返る。
髪の短くなった桂が、○○の後ろで天人を斬り殺していた。
「アンタ……生きてたの?」
「この通りだ。○○殿を残して死にはせん」
桂は腕を振り、刀身についた血を振り払う。
岡田の手にかかり死んだとされていた桂は、生きていた。
「それよりも、○○殿が無事でよかった」
死を装い、自由を得た桂はエリザベスに変装し、この船内に潜入していた。
○○が捕まったことを知り、助け出そうと試みたが上手く事は運ばず、右往左往しているうちに○○は勝手に脱出した。
「何言ってんの。それはこっちの台……詞?」
○○は首を傾げた。
桂は攘夷の徒。かつてはこの手で捕らえようとすらしていた相手。
無事でよかったなどと、どうして思うのか。