第30章 【第二十九訓】妖刀『紅桜』 其ノ三
「出せェェ! ここから出ァァせェェェ!!」
もう随分と、○○は吠え続けている。
足を床に叩きつけ、騒音を奏でている。
高杉が出て行ってしばらく無音状態が続いていたが、次第に人の声と足音が聞こえるようになった。
人がいないならば自力で脱出するしかないが、敵とはいえ誰かがいるならば何かしら方法があるはずだ。
まずは誰でもいい。人が入って来なければ話にならない。
「殺すぞ、テメェェェ!!」
叫ぶ○○の後方から、カチャリという音がした。
高杉が出て行って以来、久方ぶりに扉が開いた。
「うるさい人ですね、全く。岡田さんもつくづく困った人です」
顔を見せたのは、丁髷頭にぎょろりとした目の浪士だった。
○○はその顔を睨み上げる。
「自分の立場がおわかりですか。大人しくしていなさい」
男は舐めるような視線で○○を見る。
○○は縄を解かせる手段を考える。
まず浮かんだのは常套手段。生理現象を訴える方法。
「厠に連れてけコラァァァ!!」
男は顔をしかめた。
「少しくらい我慢なさい。女性でしょう」
「我慢の限界だって言ってんの! 何時間縛られてると思ってんだ! 男も女も同じだろうがァァ!」
男は腕を組んだ格好で○○を見下ろしている。
その訴えが真実なのか、逃げるための方便なのか、考えているのだろう。
○○は言葉を続けた。
「漏らすぞ、いいのかコラァァ!!」
男はさらに眉間の皺を深くする。
「下品な人ですね……」
男は一瞬、虚空に目を向けた。
再度、○○に目を向けると、
「いや、しかし、漏らす所を見てみたい気も……」
ボソリと呟いた。
○○は大仰に表情を歪ませる。