第29章 【第二十八訓】妖刀『紅桜』 其ノ二
繰り広げられる激闘は、岡田の一方的なもの。
橋の底が破壊され、銀時は川の中へと落下する。
「アンタそれ、ホントに刀ですか?」
全ては妖刀『紅桜』による力。
岡田の腕に絡みつく、刀と呼ぶには奇怪な代物。
刀を握っているわけではない。腕と刀が一体となっている。
生き物みたいと聞いていたその刀。それはまるで、化け物だ。
「銀さん!!」
欄干に手をかけて、○○と新八はその戦いに目を向けていた。
目で追うのがやっと。妖刀『紅桜』。それは人智を遥かに超えている。
「銀さん!!」
「銀さんんんん!!」
木刀を折られ、銀時は壁面に弾き飛ばされた。
その胸から血が噴き出す。
「銀さん!!」
飛び降りようとした○○を、エリザベスは背後から羽交い絞めにする。
今、○○が助けに入っても、死にに行くだけだとわかっている。
「離して!!」
振り解こうと腕を振り上げた○○の目の前で、銀時は脇腹に刀を突き立てられた。
水面には真ん丸い月が映し出されている。
「ぎ――」
その瞬間、脳裏にある光景が広がった。
鬱蒼とした森の中。頭上には満月。
男の胸から噴き出す血が、月明かりに照らされ暗紅の色を帯びて見える。
目の前には二人の男。後方で少年に刃を突き立てられている男と同じような風体の男達が、少女に向かって手を伸ばす。
少女は刀を構えるが、振りかざすことが出来ずにいる。
やがて男の一人に組み敷かれる。少女の手から刀がこぼれる。
身を護らんと、少女は男の腕に噛みついた。
怒った男は少女がこぼした刀を拾う。
振り上げられた刀は少女の胸を斬り裂いた。
その直後、男の手から刀が落ちる。
二人の男の姿も、視界から消えた。
代わりに見えたのは、表情を歪めた少年の顔。
か細く呼吸をしていた少女は息を呑む。
少年の背後に、短刀を振り上げた男が映る。
少女は無意識に傍らの刀を掴んだ。
ためらうことなく刀を突き上げる。
少年の顔の横を抜け、刀は男の胸を貫いた。
少女の顔に、男の胸から噴き出した血が降り注ぎ、その顔を赤く染め上げる。
男は斃れた。
少女は力尽きたように目を閉じる。
少年が呼ぶ自身の名を耳にしたのを最後に、少女は意識を失った。
――○○……!