第29章 【第二十八訓】妖刀『紅桜』 其ノ二
○○は木刀を取り落とす。
力の抜けた○○を離し、エリザベスは新八を止める。
だが、新八はその手を振り切った。エリザベスから刀を奪い、壊れた橋の底から川面へと飛び降りる。
新八は刀を振るい、岡田の右腕を切り落とした。
○○はその場に膝を着く。
呼吸が乱れる。ここは江戸の街だ。鬱蒼とした森の中ではない。
だが、どちらが今いる場所かわからなくなるほど鮮明にその光景が浮かぶ。
「オイ! そこで何をやっている!!」
騒ぎを聞きつけ、奉行所の男達が駆けつけた。
その声も、○○の耳には微かにしか入らない。
「銀サン!」
新八の声に目を向ける。
欄干の間から見える銀時は、岡田が引き上げたことに安堵したのか気を失った。
(銀、さん……)
駆けつけたいが、体が動かない。
目の前に見えるのは、血にまみれた銀時と、水面に映し出される満月。
同時に、鬱蒼とした森の中から見える満月の姿。
その月は、今日と同じように一際大きく、光り輝いている。
「……さん! ○○さん!」
新八の声で足音に気づいた時には、その姿は目の前にあった。
「○○さん!」
○○は岡田に担ぎ上げられた。
新八は岡田を追いかける。手負いの上に荷を負っている。追いつける。
岡田の肩に担がれた○○は首を横に振っていた。その表情が訴えている。
新八は足を止めた。
――来るな。
私はいいから、銀さんを助けて。