第29章 【第二十八訓】妖刀『紅桜』 其ノ二
「件の辻斬りはアンタの仕業だったのか!? それに銀さんも……うわっ! ○○さんも!」
新八はゴミ箱の中にもう一人の人物を見つける。
○○が銀時のようにすぐに立ち上がらなかったのは、似蔵の声が背後から聞こえていたため。
あの場面で立ち上がっても、○○と向き合う形になるのは新八とエリザベス。
その場は銀時に任せるしかなかった。
銀時はゴミ箱から抜け出ると、○○の腕を掴んで立ち上がらせた。
「なんでここに!?」
「あの女も一緒かィ」
○○は岡田に目を向けた。
まるで見えているかのように、岡田も○○に顔を向けている。
「目的は違えど、アイツに用があるのは一緒らしいよ、新八君」
岡田は自らの刀を災いを呼ぶ妖刀と呼んだ。
さらに、その刀で桂を斬ったとほざく。
「せめて奴の形見だけでも返すよ」
岡田は髪の毛を掲げた。
まさか……と、○○や新八は目を見開く。
「ヅラはてめーみてーなザコにやられるような奴じゃねーんだよ」
銀時は岡田に斬りかかった。刀身で岡田は木刀を防ぐ。
岡田は一度剣を交えて勝っている相手。普通にやり合えば、負ける相手ではない。
だが、桂を斬ったというのは本当か――
桂の実力がどれ程のものなのか。
実際に目にしたことのない○○は知らないが、銀時と共に攘夷戦争を戦い抜き、生き残った程の男。
普段はふざけた男だが、銀時も桂の力には全幅の信頼を置いているよう。
真選組の追随を退けていることを考えても、一介の浪士に殺されるような輩ではないはずだ。
「俺ならば敵うまいよ」
○○は気がついた。
銀時の木刀を押さえているその刀には、あえかな紅が色づいている。
刀鍛冶の兄は言っていた。
――月明かりに照らすと淡い紅色を帯びる
――刀身は夜桜の如く妖しく美しい
目の前で煌めく刀身には、その特徴が顕れている。
「奴を斬ったのは俺じゃない」
○○は目を疑った。岡田の持つ刀が形を変えていく。
「なァ……『紅桜』よ」
それはまさしく、捜し求めていた妖刀。