第28章 【第二十七訓】妖刀『紅桜』 其ノ一
路地を通りながら、銀時と○○は移動している。
辻斬りが出没するような場所は、繁華街ではなく小さな商店や民家が立ち並ぶ場所。
それらしき気配を探しながら、細い道を順々に行く。
○○は空を見上げる。あたりを照らすのは、また一段と大きな満月だ。
「いてっ!」
頭上を見ながら歩いていた○○は、銀時が立ち止まって振り返っていることに気づかずにその胸に激突した。
「オイオイオイ、注意力散漫じゃねーか。本当に大丈夫か?」
銀時は眉をひそめて心配そうな声を出す。
先程から、○○の受け答えにどこかそぞろな雰囲気を感じていた。
「大丈夫だよ」
不安を感じているわけではない。
ただ、不思議と満月に目が奪われる。
「大体、今さら一人じゃ帰れないんだから」
○○はふんぞり返るように胸を張る。
夜の闇の中に出られるようにはなったが、そこには目の前の男の存在が必要。
送り届けてもらわなければ、帰ることすらままならない。
「何、威張ってんだ」
銀時は○○の後ろに青い箱を見つけて指を差した。
「帰れねーなら、そこに入って待ってるか?」
○○は振り返り、銀時の示した指先をたどる。
そこにはプラスティックの丸いゴミ箱があった。
「誰がゴミだァァァ!!」
目を吊り上げて○○は叫ぶ。
「でけえ声出すな! 辻斬りがいたらどうすんだ!」
「お前もなァァ!」
「そーさ、俺もさァァ!」
周りの住人から文句を言われないのが不思議な程の大声を二人は上げる。
その言い合いはすぐに止まった。銀時が表情を変えて背後を見た。