第28章 【第二十七訓】妖刀『紅桜』 其ノ一
「銀さーん」
○○の声に銀時は振り返る。
手には刀らしいものは持っていない。それは○○も同じ。
双方『紅桜』を見つけ出すことは出来なかった。
それでも互いに収穫はゼロではなかった。得た情報は同じもの。
「銀さんも聞いたんだ」
最近、巷で横行しているという辻斬りの噂。
○○は近藤と土方からその話を聞いた。
「奉行所でも見廻りを強化してるんだって」
真選組からも隊士を貸していると近藤は言っていた。
隊士の中で辻斬りに出くわした者はまだいないが、目撃者の話を聞く限り、ただの辻斬りとは思えないという。
犯人の刀がまるで生きているようだったという。眉唾物の話だが、複数の目撃者が同様の証言をしているため法螺とは思えない。
妖刀と呼ばれる『紅桜』にはふさわしい怪異な話。
「いっちょ、辻斬り捜しでもしてみっか」
仮に辻斬りが持つ刀が『紅桜』ではなかったとしても、犯人が捕まえられるならそれはそれで空振りではない。
「辻斬りか……」
昼日中から現れる相手ではない。
○○は空を見上げた。橙色の空は消えかけ、暮色が迫っている。
「先に帰っとくか?」
「まさか」
銀時の腰から自身の木刀を引っこ抜く。
「大丈夫だよ。銀さんがいるから」
銀時は口元を緩めた。
今の○○の剣術ならば、辻斬りに遭遇しても逃げきることくらいは出来るだろう。
それに自分がいる。この女に剣先を向けることすらさせやしない。