第28章 【第二十七訓】妖刀『紅桜』 其ノ一
「お茶です」
エリザベスを応接間に通し、ソファへ座らせた。
居間を背にした窓側に銀時、間に酢昆布をかじる神楽を挟み、ガラス戸の側に○○。
三人はエリザベスと向かい合って座っている。
新八はエリザベスの前に茶を置くと、○○の背後に回った。
「○○さん、なんなんですか」
「だから、知らないって」
未だにエリザベスは沈黙したまま。
そうなると、連れて来た○○に聞くしかない。だが、○○は何も知らない。
むしろ、連れて来られたのが○○の方だ。
「あの……今日は何の用で?」
意を決して、新八がエリザベスに話しかける。
無言。エリザベスの瞳は正面を向いたまま。
巨大なぬいぐるみのように動かない。
「……なんなんだよ、何しに来たんだよ」
銀時と新八は口元を隠してコソコソと言葉を交わす。
怒ってるのか? 笑ってるのか? なんで黙ってほくそ笑んでんだよ。
「新八、お前のお茶が気に食わなかったネ」
神楽は新八のせいにする。
コーヒー派だったアル、と。だが、コーヒーを出してもエリザベスは無言のまま。
出された飲み物にも、置かれている煎餅にも手をつけない。
「お煎餅じゃない? 出すなら激辛せんべえ出せや、こんな薄味食えるかコノヤローってことじゃない?」
「あんなもん食うの、お前くらいだ」
再び責任のなすりつけ合い。
そうしている間にジリリリンと電話が鳴り、銀時が立ちあがった。
「あ、ハイハイ。万事屋ですけど」
「新八、こうなったら最終手段ネ」
いちご牛乳を出そうと神楽は提案する。
銀さんのだから怒られると、新八は渋る。
○○はエリザベスを見つめている。
無意識に○○の目ん玉もまん丸になっていく。
「おーう、俺、ちょっくら出るわ」
電話を切った銀時はソファには戻らず、新八の後ろを横切った。
○○の腕を掴んで立ち上がらせる。
「ちょっと、どこ行くんですか!?」
「何の電話だったの?」
仕事と言って、○○を連れて銀時は万事屋を後にした。
エリザベスの相手は新八と神楽に押しつけられた。
「いちご牛乳でございます」
怒った新八は銀時の飲み物を無断で来客者に差し出す。
エリザベスはポロリと涙を流した。