第25章 【第二十四訓】一寸の虫にも五分の魂の話 其ノ一
たどり着いた場所には隊士が勢揃いしていた。
巨大な音はカブトムシの着ぐるみを被った沖田が木から落下した音だった。
過重な被り物のせいで、落下音は近くの山崎よりも何倍もの大きさになっていた。
駆けつけた○○が見たのは、隊士の姿だけではない。
「あれ? 銀さん!」
銀時をはじめ、新八、神楽の万事屋一行。
「○○!?」
「○○さん!」
○○は隊士を掻き分け、銀時の元へと駆け寄る。
だが、最後の一人の所で首根っこを掴まれた。
「ぐえ!」
カエルを絞め殺したような声を○○は漏らす。
「何すんの! トシ!」
じたばたと、○○は手足を動かす。
○○の様を見て、隣にいた沖田も手足を動かした。
被り物のカブトムシの六本の脚。
「気持ちワル!」
うねうねと、○○の真横でその脚は動く。
顔を背け、反対側に目を向けた○○はさらに眉をひそめた。
目の前に現れたのは近藤の胸板。
ハチミツの匂いで瑠璃丸を誘き寄せる作戦を立てている近藤は、全身ハチミツまみれ。
近藤の輝く胸板を間近に見ながら、カブトムシ沖田の六本の手足が頬をかすめる地獄絵図。
そんな状況に○○を置いたまま、近藤、土方、沖田の三人はカブトムシ確保方法について言い争いを始めた。
白熱する三人は○○を取り囲むように間合いを詰める。
○○の眉間がぴくぴくと動く。
危うくハチミツ漬けにされそうになった○○を救ったのは、望遠鏡を覗いた隊士の叫び声。
「局長見て下さい!」
視線の先には一匹の艶やかなカブトムシ。
土方は○○を突き飛ばすと、カブトムシへと突進した。
「カブト狩りじゃああ!!」
土方だけでなく、銀時と神楽もカブトムシ目指してひた走る。
さらには近藤と沖田も。一匹のカブトムシを巡って争奪戦が繰り広げられる。
「カーブートー折りじゃァァァァ!!」
騒乱の最中、カブトムシは優雅に空へと飛び立った。