第25章 【第二十四訓】一寸の虫にも五分の魂の話 其ノ一
ミーンミーンと鳴き声の響く森の中。
○○は生い茂る木々に目を凝らしながら歩いていた。
「おーい、瑠璃坊ー、どこにおるんやー」
隣には山崎。
「カブトムシ自体、あまりいませんね」
○○同様、山崎も視線を漂わせながら歩いている。
真選組隊士の大半は現在、この森に集結している。
数日前に上官の松平片栗虎から任務が下った。
将軍のペットであるカブトムシの瑠璃丸を捜し出せ。
この森で、将軍は瑠璃丸と生き別れてしまったという。
拾われた可能性も考えて市中を探索したが成果がなく、今日は森を探索することになった。
森の中ならば人に見られることはない。
瑠璃丸探索の話を山崎から聞いた○○は、アルバイトも休みなのでくっついて来た。
「それにしてもしょぼい監察だよね」
「はい?」
突然のダメ出しに、山崎は頬を引きつらせる。
監察方、密偵、いわゆる忍者なのに、とぼとぼと森を歩くのみ。
木の枝をしゅたたたと飛び移り、広大な森も一瞬で見て回れるような技術はないのかと、○○はつまらなそうな顔を見せる。
貴女も監察方に所属していた身でしょうが! とは口が裂けても言えない。
「出来ますよ! それくらい!」
山崎は高らかに宣言した。
○○の不満顔を見ておいて、何もしないのは男がすたる。
見ていて下さい! と、山崎は木に手をかけた。しがみつく格好でゆっくりと登って行く。
その格好が既に忍者らしくない。○○は視線を外した。
そうとは知らずに、山崎は頑張って登り続ける。額に汗しながら、必死に手足を動かす。
背の高い大木。選ぶ木を間違えたと後悔し始めた頃、ようやくあと少しで枝が掴める所まで登りつめた。
伸ばした手が震える。足の力もそろそろ限界だ。一瞬の緩みで山崎は地面に脳天から落下した。
――ズズゥン
巨大な音が森を揺るがした。しかし、それは山崎の落下した音ではない。
○○は木々に向けていた目を音の聞こえた方角へと向けた。
「何だろ、今の音。行ってみよう、山崎!」
山崎が落ちたことにも気づかずに、○○は音の出どころに向かって駆け出した。
「○○さん……」
仰向けに倒れた格好のまま、山崎は○○の後ろ姿を見送った。