第24章 【第二十三訓】隠し子騒動と盲目の剣士の話 其ノ二
「神楽ちゃん?」
先の角を曲がると、さらに先の突き当りに神楽の姿があった。
彼女は使用人と思われる格好をした男性の背後にぴったりとくっついていた。
○○と新八は神楽の元へと足を進めた。
ちょうどたどり着いた所で男性が振り返る。
その顔は見知ったグラサン。
「また転職ですか?」
新八は蔑みの目を向ける。
長谷川は橋田屋の使用人として雇われているという。
新八は長谷川に案内を頼んだ。
「ここですか? あの女の人が連れ込まれた部屋は?」
賀兵衛の孫を連れ去ったという娘が連れて行かれる所を、長谷川は目撃していた。
嵌め殺しになっている隙間から中を覗くと、娘が柱に括りつけられ、暴行を加えられている姿が見えた。
「あの子は私の子です。誰にも渡さない」と、抵抗している。
「長谷川さん、これって……」
「オイ、そこで何をしている?」
背後からの声に、四人は振り返った。浪人風の男達が並んでいる。
長谷川が機転を利かせ、新入りの三人に建物の中の案内をしていると嘘を吐いた。
これ以上の長居は無用。
「待ちな」
怪しまれる前に退散しようとした四人を、一人の浪士が止めた。
「ねずみくさいウソつきスパイの匂いだね」
今日はいろいろな匂いと出会えると、鼻を嗅ぐ仕草を見せる。
「おやァ、変わった匂いがするねェ」
浪士は視線を○○に向けた。
だが、サングラスの下の瞳は開かれていない。盲目らしい。
○○は息を呑んでモップを握りしめる。
長谷川の嘘に欺かれているような多勢の浪士はザコだが、この男は違う。
死線を潜り抜けて来た剣客の雰囲気が漂っている。
「闘り合ってくれるかィ。この人斬り似蔵と」
男から放たれる殺気。
娘に狼藉を働く場面を見られていたとなれば、賀兵衛は四人をただでは帰さないだろう。
ならば、今のうちに。強行脱出あるのみ。
「たァァァ!」
刀を抜かれる前にと、○○はモップを握りしめて飛びかかった。
殺られる前に、殺れ。